このドラマが始まったとき、「不倫が題材だが人が陥ってしまう弱さとしての面から真面目に描くならアリかもしれない」と書いた。最後まで見て、裏切られることはなかった。切なくも理解出来る2人の選択、考え、苦しみ、決めていく過程が丁寧に描かれ、そして結末も良かったと思います。良作!
麻衣子さんこと門脇麦&二葉さんこと森山直太朗。物静かで我慢強そうなふたりには、それぞれ、まぶしくそれなりに自由にいきてるように見える伴侶がいます。不倫されてることに気づきながら、輝かしい思い出となってしまった幸せ時代がときに記憶をよぎりつつ、ただただ耐える悲しい低空飛行の日々。毎日のルーティン会話、ご飯、ごみ捨てがつづく。
社宅のベランダでさびしく帰りを待つ二人の間に生まれる、共感か同情か愛情かただの悲しさの共有か、まさに当人にもなにかわからないもの。それに気づきつつ、怒りを押し殺しギクシャクした夫婦生活を続けなきゃならない毎日のなか、感情振れ幅をおさえたまま低空飛行がつづいていきます。が、あるところから、さすが門脇麦さんらしい内に秘めた激しさで物語は展開し、苦しみ、結末をむかえます。
社宅のベランダ、隣との間の緊急時突き破ると書いてあるあのボードが、メインの舞台セットといっていい、斬新な、どこか冷めた空気感が独特です。
題名にもなっている浮き輪が、青い海に投げ込まれる黄色い浮き輪の映像が、とても印象的で重要な役割を果たします。たぶん、浮気された、され妻、され夫にしかわからない感覚があるかもしれません。世界は平和で晴れているのに、自分はたったひとり放り出され孤独、誰も信じられなくなりおそろしく息すら自然にできなくなる、でもつづいていく毎日の生活、待つ時間。たったひとつの裏切りを知ってしまった瞬間に、見ていた世界が、そこにあったはずの暖かい温度が、明るい未来が、自分の性格が、180度変わってしまう。
どこからでも真っ青な青空の下の空気のない海中に転落する可能性がある、そんな危うさを描き出し、転落したその場所からどうやって浮上するかのモガキを丁寧にゆっくり体感させることに成功。つづいていく生活のなかで、何かに逃げなければやってられないときもあり、でも自分を見つめふりかえる瞬間もあり。自分がされて嫌なことや自分の美学や哲学でゆるせないことについての葛藤もあり。黄色い浮き輪が象徴するものが、ふたりにとって必要だったそんな日々。それはそれでかけがえのない時間になる、というか、した、というか。ふたりとも偉いよ~
何がハッピーエンドかは人それぞれですが、凸凹が避けられないのが人生なら、頭切りかえて塞翁が馬とできたもの勝ちかな。自力で泳ぎきってまた青空を見られる日を夢見て。生きるということ自体の重くて細い道。色んな人が見ることをちゃんと想定して作られたうまい作品だと思います。テレ東やるね!
※安藤裕子「ReadyReady」は苦しさを、三浦透子「通過点」もドラマの世界観全体をサポート。「すぎてみればただの通過点 ほんの数分で終わる笑い話にしよう」