最高だった。従来のピチピチ新人美人女優が下手気味な演技からなんとか脱皮の兆し見せながら進む趣向と少し違うためか視聴率は今ひとつだったと聞くが、このドラマは凄かった。朝から感動して何度も泣いた。
主演の演技が牽引する世界観が確立し、ストーリの完成度高く、今の時代に非常にフィットし、文句のつけ所がない。いくつか適度に散りばめられた伏線が綺麗に回収され感動を呼ぶ点や、なんどか繰り返しでてくる劇中劇が現実のほうとリンクし主人公の気持ちが昇華というか成仏することで見続けた視聴者に勇気とご褒美を与えるあたりの構成は、作者の実力をあらわしていると思うが、凄すぎる。
そして、なんといっても、主演の杉咲花の声とセリフ、演技うまし。苦労の末に肝が据わった千代(喜劇女優)役の凄みがすごい。ちなみに主役の子供時代と、千代がひきとる子供役の2役の子役の毎田暖乃も物凄くうまい。ふたりとも万人がうっとりする系統の顔ではないかもしれないが、役になったとき抜群に輝き結果としてとても美しい。わたしはそんな女優さんこそ本当の女優さんだと思う。その意味で、このドラマはピチピチ若手美人発掘登竜門的なオヤジが喜びそうな朝ドラのツボをすりぬけ(排除し)、隙のない完成度で、ある意味朝ドラっぽくはない、それは先に民放で主演もはっていた杉咲花をあまり知らなかった視聴者の方々にはおそらく嬉しい誤算だったんじゃないかと思います。美しいですよね、千代役杉咲花。わからないひとはそれはそれでよろし。
わたしの受け止めは、現代版『風と共に去りぬ』(私の永遠のお気に入り)。強がりで、でも弱くてくじけそうになりながら、なんど苦難にあたってふみにじられても、歯を食いしばって立ち上がる、過酷をすりぬけたからこそ本当の強さを兼ね備え、ひとりでも生きられるようになった女性の生き様。男運というか夫婦運は幸せな時期もありつつ永続はしない彼女ら。それもまたリアル。ただ、彼女らはそれを悔いなくてすむほどの新しい展開を切り開く。コロナで先行き見えず皆が不安な未曾有の苦難の今、色々あるが厳しい現実から逃げずに戦い小さな幸せと共に生きることを歌いあげてくれました、ありがとう!
「そういう、目おおいたくなるようなことの先にこそ本当の喜劇がある、えらい遠回りして、ようやっとその事に気つけました」「そうですな、いまある人生、それがすべてですな」「生きるっていうのはほんまにおもろうてしんどいな」
脇ささえるかたたちもすごかった。最初は千代の不幸のはじまりともいえ、千代的には愛憎絡まる最悪な父親にトータス松本。そして、先輩人気喜劇役者の嫌われ役をやりきったホッシャン、最終的には理由が明かされ、職人あるあるというか、言葉足らずな日本男児っぽい渋い奥行きに驚き、それまでのことが腑に落ち感動を呼んだ。最後にいいとこをもっていったのは、戦争中にご縁が生まれNHKラジオドラマに引っ張ってくれる花車役のドランクドラゴンの塚地。起承転結の結のあたたかな温度感をつくりあげた。成田凌も大健闘、今まで見た中で一番うまかったので、まだまだ伸びそう(僭越)。篠原涼子や前田旺志郎も良い味。さらに鶴亀新喜劇の熊田さん役の西川忠志さんの最後の粋なはからいからの見守りきった最終週の千代を送り出す表情が100点満点。何度も泣かされてきた視聴者が最後に感動で涙するタイミングに見事にいざなった、完璧です。
今回たまたま堀井憲一郎さんの評https://news.yahoo.co.jp/byline/horiikenichiro/20210515-00238090/を先によんでしまったけれど、その方は「本当の家族とはなにか」を示した名作ドラマで、ただそれが最後3話になってやっと判明するつくりが呑気で惜しいという趣旨を書かれていた。ひとことでまとめるならそのテーマ&名作ということでまったく異論ないですし、素晴らしい評でした。
ただ、わたしには、この壮大な完成度高いドラマは、そのひとつの大テーマだけじゃなかったように思えるのです。人生と同じ、長いあいだには色々あります。今も世界中の女性にとって生きにくいのは戦争だけじゃない、生まれた環境による制約、教育を受けられないこと、自由のなさ(小さな千代はお金で売られていきます)、戦争、夫の浮気と離別、子供を授からないこと自体の寂しさとそれによる肩身狭さや不利益、人間関係などなど。その中で、最初に千代を苦しめたのは家族で、でも最後に千代を救ったのも家族でした。かつて憎んだ継母の栗子と姪の春子との束の間穏やかな生活が、千代の新しい足場になります。すべての苦労が無駄ではなく、彼女の力となり、幸せを見つけ出せた瞬間が描かれています。このために、すべての苦労話がかかれてきました、人生と同じです。もしすべて自分のなかで悔いなしと振り返る境地にたどり着けたなら。たぶん悩みや苦労のない人などいなくて、もがいたなかから笑顔を絞り出せたヒトに人生は微笑んでいます。塞翁が馬、終わりよければすべてよし、でも、人生はまだまだ続きます!
ありがとう、おちょやん!名作認定に心をこめて1票!!
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※最後までみてから改めて聞くと、主題歌「泣き笑いのエピソード」(秦基博)のサビもぴったり♡
「どんな今日も愛したいのにな」「笑顔を諦めたくないよ、転んでもただでは起きない、そう、強くなれるよ」「かさぶたが消えたなら、聞いてくれるといいな、泣き笑いのエピソードを」